ケース紹介
ギャンブル借金の個人再生ケース紹介
ケース紹介146 Sさんの事例

綾瀬市在住 ( 会社員 / 40代 / 男性 )
借入の理由:ギャンブル 債務総額1225万円
ギャンブルや浪費が原因の借金でも、個人再生を利用できる可能性はあります。
ただし、裁判所によって、直近のギャンブル損失が清算価値に上乗せされ、返済額が増えることがあります。
この記事では、清算価値保障原則の考え方、裁判所や個人再生委員の判断、実際の事例と注意点を解説します。
個人再生とギャンブル・浪費
ギャンブルや浪費で多額の借金を抱えてしまった場合でも、個人再生手続きを利用して住宅を残しながら借金を整理できる可能性があります。
しかし「ギャンブルで借金を作った人は個人再生できないのでは?」という不安をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

結論から言うと、ギャンブルを理由に個人再生が認められないわけではありません。
ただし、ギャンブルや浪費の履歴があると、「清算価値保障原則」という観点から返済すべき金額が増える可能性が最近では指摘されてきています。
また、裁判所によっては審査が非常に厳しく、書類の追完や面談が繰り返される中で手続きが長期化することもあります。
今回は、個人再生における清算価値保障原則の一般論と、直近のギャンブルによる損失が清算価値に影響した実際の事例をご紹介します。

個人再生とは?
個人再生(民事再生法に基づく個人再生手続き)とは、裁判所を通じて借金の総額を大幅に減額してもらい、残りを原則3年(最長5年)かけて返済していく法的な手続きです。
最大の特徴は、住宅ローンを払い続けることで自宅を残せる点にあります(住宅資金特別条項の利用)。
破産手続きでは財産をすべて手放すことになりますが、個人再生ならば住宅を守りながら借金を整理することが可能です。
借金の圧縮幅は大きく、総額に応じて最大5分の1まで減額されます(最低弁済額基準)。
ただし、後述する「清算価値保障原則」が適用されるため、実際の返済額は最低弁済額よりも多くなるケースが出てきます。

清算価値保障原則とは
個人再生では、次の3つの基準のうち最も金額が高いものを弁済総額としなければなりません。
1. 最低弁済額基準
借金総額に応じて定められた最低限の金額(借金が100万円以上300万円未満なら100万円など)
2. 可処分所得基準
月収から生活費等を差し引いた可処分所得の2年分(給与所得者等再生の場合)
3. 清算価値保障原則(清算価値基準)
もし破産した場合に債権者が回収できるであろう金額(清算価値)以上を返済しなければならないというルール
この3つの中で、多くの方にとって返済額を左右するのが「清算価値保障原則」です。

清算価値とは、「現時点で保有しているすべての財産を換価したとして得られる金額の合計」のことです。
具体的には次のものが含まれます。
・不動産(自宅など)の評価額 ※住宅ローン残高を差し引いた残余分
・預貯金・現金
・生命保険の解約返戻金
・自動車(ローンがない場合)の評価額
・退職金見込み額(一定割合)
これらの財産の合計額が清算価値となります。
つまり、資産が多ければ多いほど、返済すべき金額も増えるという仕組みです。
不動産を持っている方の場合、不動産の評価額が清算価値に大きく影響するため、査定の金額が手続きの帰趨を決めることもあります。

ギャンブルや浪費は清算価値に影響するのか
ここが、ギャンブルや浪費で借金を作った方に特に注目していただきたいポイントです。
【直接的なルールは存在しない】
民事再生法の条文には「ギャンブルで失った金額を清算価値に加算しなければならない」とは書かれていません。
したがって、ギャンブル歴があっても、原則として清算価値の計算方法そのものは変わらないはずです。
【実務上の運用:裁判所・個人再生委員の判断】
しかし、実務上は、裁判所や個人再生委員(裁判所が選任する専門家)によって、ギャンブルや浪費による損失額を清算価値に「上乗せ」して計算するよう求められることがあります。
その背景には、破産手続きとの関係があります。
破産手続きでは、ギャンブルや浪費を繰り返した場合は「免責不許可事由」に該当し、借金の免除を認めてもらえないリスクがあります。
個人再生はそのような方にも利用できる制度ですが、だからといって「破産だったら損をしていたはずの債権者が、個人再生では損をする」という結果になるのは不公平とも言えます。
そこで一部の裁判所(特に審査の厳しい裁判所)では、ギャンブルや浪費によって「本来あるはずだった財産が失われた」と見て、その損失分を清算価値に加算するよう求める運用がされることがあります。

【特に問題となりやすい「直近のギャンブル支出」】
加算の有無・金額は裁判所や個人再生委員の判断によりますが、申立前の直近数ヶ月から1年程度のギャンブル支出が特に問題視される傾向があります。
おそらく理論的には、借金の支払ができない状態なのにギャンブルに使った資産を清算価値に加算しろというものです。
そのため、ギャンブル歴がある場合は、個人再生手続きの中で次のことが求められる場合があります。
・ギャンブルの収支履歴の提出(払い込み・払い戻しの詳細)
・クレジットカード明細・電子マネー・QR決済の履歴提出(口座引き落とし以外の支出の特定)
・ギャンブルにいくら使い、いくら取り戻したか(実際の損失額)の明確化
これらの資料を元に、担当の個人再生委員や裁判所が「清算価値に加算すべき金額があるかどうか」を判断します。

事例解説:ギャンブルが清算価値に影響した実際のケース
ここからはジン法律事務所弁護士法人が取り扱った実際の事例をご紹介します。
【相談者の概要】
Aさん(40代・男性)
職業:会社員(手取り月収約40万円)
自宅:約15年前に住宅ローンを組んで購入。ローン残高約1,300万円。
借金総額:約1,300万円(直近3年間で約900万円増加)
【ギャンブルの経緯】
Aさんは若いころからインターネットを通じた公営競技(競馬・競輪・オートレースなど)に参加していました。3年ほど前、親族の援助によって当時の借金を一度完済しましたが、「確率統計で勝てる方法があるのではないか」「ポイントで取り戻せる」という考えから再びギャンブルを再開しました。
クレジットカードを使った入金も行いながら投資額を増やし続けた結果、3年間で約900万円の借金が積み上がり、総額が約1,300万円に達しました。
自宅を手放したくないという強い希望から、破産ではなく個人再生(住宅資金特別条項付き)を選択されました。

【当初の再生計画】
弁護士との相談段階での試算では、不動産評価額から住宅ローン残高を差し引いた額・預貯金・保険解約返戻金等を合計した清算価値をもとに、最低返済額は約260万円(月8万円×3年間)と見込まれていました。
しかし、不動産がアンダーローンであり、評価額を示す査定書の内容を疑問視されました。
【個人再生委員・裁判所からの指摘】
申立後、裁判所から個人再生委員が選任されました。ギャンブル支出が大きいことなどから個人再生委員選任となりました。
個人再生委員から、次のような指摘がありました。
「ギャンブルは清算価値の保障に直接的な適用があるものではありませんが、破産の場合、ギャンブルは免責不許可事由になります。そのため、ギャンブルで消えた金額の一部を清算価値に加算することも検討が必要です。まずはギャンブルにいくら使い、いくら失ったのかを明らかにしてください。」
これを受け、次の資料の追加提出が求められました。
・公営ギャンブルサイトの入金・払い戻し履歴(銀行口座からの入出金)
・クレジットカード明細(口座引き落としとならなかったギャンブル支出分)
・QRコード決済の利用履歴
ここで問題が生じました。Aさんのギャンブル収支は、銀行口座の入出金だけを見ると「プラス(儲かっている)」に見えてしまうという状況だったのです。これは、払い戻しは銀行口座に入金される一方で、入金(賭け金)の相当部分がクレジットカードやQR決済経由だったためです。
追加でカード明細等を提出・集計することで実際にはマイナスであることが判明し、Aさんが本当にどれだけの損失を出していたかを正確に示す収支表を作成する作業が進められました。この損失額が最終的な返済総額に上乗せされるかどうかは、裁判所と個人再生委員の協議に委ねられました。

受任通知半年前のギャンブル損失が清算価値に
弁護士に依頼する前のギャンブルの損失が清算価値になるというのは納得しにくいところがあるのですが、長期間の争いに持ち込めない事情もありました。
協議の結果、最終的には、受任通知から遡って半年間のギャンブルの損失額約41万円を清算価値に計上しての手続となりました。
住宅がアンダーローンだったため、この金額を争っていくと、別の清算価値が上がる関係もあり、裁判所側のこの判断を受け入れての再生計画案作成となりました。
横浜地方裁判所のこの理屈が一般化されるのであれば、受任通知を遅らせた方が最終支払い額が下がるということになります。問題を先送りさせるインセンティブが働いてしまい、誰のためにもならないような気がします。
少なくとも、このような指摘がある以上、個人再生の相談に来所されたら、この運用を説明せざるを得ず、そうすると、ギャンブルを止めてから半年間、頑張って返済を続けてみたけど、支払えませんでしたという状態を作ろうする人が増える予感がします。

【返済期間の5年への延長】
不動産評価額の上昇と清算価値の増加を受け、当初の「月8万円×3年」という計画は維持不能となりました。
個人再生委員との面談で返済期間を5年に延長することが協議され、月約11万円(借金分)+住宅ローン7万円という計画に切り替える方向で調整が進められました。
Aさんの収入水準(月収40万円)からすれば、この金額であれば家計に余裕をもって返済を続けられると判断されたのです。
また、5年返済での「履行テスト」として、月10万円を弁護士預り口座に積み立てることが求められ、Aさんは毎月着実に積み立てを続けながら手続きを進めていきました。

ギャンブルがある個人再生を進めるポイント
この事例から、ギャンブルや浪費の履歴がある方が個人再生を進める際の重要なポイントをまとめます。
【ポイント】ギャンブル収支の記録は早めに・すべてのルートで整理する
銀行口座・クレジットカード・電子マネー・QR決済など、すべての支出ルートを洗い出し、正確な損失額を把握しておくことが重要です。一部のルートだけを集計すると、かえって収支が「プラス」に見えてしまい、不利な状況になることがあります。弁護士への相談段階から資料収集を始めましょう。
【ポイント】ギャンブル損失の清算価値への上乗せ可能性を事前に見込んでおく
直近のギャンブル損失が清算価値に加算される場合、当初の計画より返済総額が増える可能性があります。弁護士との相談段階からこの点を考慮した資金計画を立てておくことが重要です。
【ポイント】返済期間の延長(3年→5年)も選択肢に入れる
清算価値が増加した結果、3年返済では生活が成り立たなくなる場合は、5年返済への延長が認められるケースがあります。その場合でも、毎月きちんと返済できることを積み立てテスト(履行テスト)で示すことが条件となります。
また今回の事例のように、複数の問題が重なって当初の計画よりも返済総額が大幅に増えることもあります。裁判所や個人再生委員の判断によって手続きの行方が左右される部分も大きいため、弁護士と綿密に連携しながら進めることが不可欠です。

再生計画案による減額
住宅ローン以外の借金部分については1225万円の借金が684万円まで減額されています。
毎月の返済額は約11万円となっています。

ギャンブル借金での個人再生の依頼も多くありますので、借金でお困りの方はぜひご相談ください。











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